武庫川女子大学
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武庫川学院80周年

きのこの発酵能に光を当てたパイオニア――食物栄養学科の研究力[2017/09/18更新]

 食物栄養学科の松井徳光教授は、きのこの発酵能を使った機能性食品研究の第一人者だ。長年の研究業績が認められ、きのこ界のノーベル賞といわれる「森喜作賞」(2011年)、日本きのこ学会の学会賞(2016年)という、きのこ研究者の2大頂点を極めた。
 農学部出身で専門は微生物学。京都大学化学研究所の研究員時代は、遺伝子組み換えや酵素合成を得意としていた。きのこを研究テーマにしたのは、1990年に武庫川女子大学に着任してからだ。「食物栄養学科にふさわしいテーマを見つけよう」と、きのこの人工栽培に注目し、研究を続ける中で、きのこに抗トロンビン活性や線溶活性があることを確認した。血栓を溶かして心筋梗塞や脳梗塞の予防に役立つ作用だ。きのこにアルコール脱水素酵素があり、アルコール発酵することも明らかにした。
 実用化をめざし、アルコール発酵能を活かした清酒、ビール、ワインの醸造に成功した。ワインの場合、三角フラスコにブドウ果汁ときのこの菌糸を入れて攪拌を続けると、菌糸が発酵ダネとなって、アルコールを醸成する。味もよく、きのこの健康効果もついてくる。ほかにも、乳酸発酵能のあるきのこからチーズを作ったり、大豆にきのこ菌糸を生育させて、きのこ納豆を作ったり。発酵梅、発酵豆乳、発酵ウスターソースと、きのこ発酵食品のバラエティは広がった。
 研究の過程で多くの特許を武庫川学院と共同で取得した。アルコール飲料を中心に企業から問い合わせが相次いだが、設備投資に巨額の費用がかかること、微生物の扱いが難しく、安定的に生産できないことから、製品化には至っていない。「当初は『酵母や麹を使わないのに、ワインや清酒といえるのか』『チーズは乳酸菌で発酵させるものだ』という否定的な声もあり、既成概念との戦いでした」と振り返る。
 松井教授自身の人懐こいキャラクターにも光が当たった。「世界一受けたい授業」(2011年、日本テレビ系)をはじめ、テレビやラジオに数多く出演。滋賀県高島市のたかしま発酵食文化カレッジで学長を務めたこともある。
 「武庫川女子大学には、教員の自由な研究や活動を支える環境がある。研究を通して企業や行政との協働が生まれ、視野が広がった。それがまた、次の研究や教育に活かされてきた」と、松井教授は言う。食物栄養学科が日本屈指の管理栄養士養成施設として、毎年、高い国家試験合格率をはじき出す一方で、病院、福祉分野だけでなく、食品メーカーなど多様な進路を開くのは、松井教授をはじめユニークな教員がそろい、高い研究力と教育力を両立しているからだ。
 松井教授は現在、日本きのこ学会副学長、発酵と酵素の機能食品研究会会長を務め、大学では学生部長として多忙な日々。院生やゼミ生を指導して、きのこや発酵の研究も続けている。研究室では菌糸を入れた三角フラスコが回転し、おがくず培地できのこが育っている。この研究室から生まれた研究成果が、夢の機能性食品をもたらす未来は、そう遠くないかもしれない。
 

(米)

世界で認められた歌声――創部76年の附属中高コーラス部[2017/09/11更新]

 「もっと柔らかく!」「“ある”の“る”が低い!」「あかん!一回言ったことができていない」――。
 2017年8月23日。全国高校野球選手権大会決勝戦で広島・広陵高校と、埼玉・花咲徳栄高校が熱戦を繰り広げていた同じ時刻、甲子園球場から約1キロ離れた武庫川女子大学附属中学校・高等学校の芸術館で、コーラス部の高校生約60人が、10日後に迫る「第84回NHK全国学校音楽コンクール(Nコン)近畿大会」に向け、熱のこもった練習を続けていた。壇上から檄を飛ばすのは、コーラス部を率いて12年の岡本尚子顧問だ。 
 附属中高コーラス部は1941年創部の伝統のクラブであり、全国大会で常にトップを狙う実力派だ。全日本合唱コンクール全国大会に中学が26年連続、高校が24年連続で出場中。”コーラスの甲子園”と称される「Nコン」でも、全国大会に中学が14回、高校が15回出場している(2016年度まで)。
 この日、高校生の練習は午後1時から約3時間、ノンストップで行われた。1小節ごとに入る指導はまさに“ミリ単位”だ。――歌詞がセリフとして胸に響くか。表情に心が入っているか。パート同士の連携はどうか。上質な歌声になっているか。そもそも音程や速さは正確か――。「パーパーパンパンパパパパや!」「ガーと前にいく」。曲想が盛り上がると岡本顧問の動きは大きく、言葉も荒くなる。生徒らはそのたびに「はい!」と声をそろえる。一瞬も集中力が途切れないのはさすがだ。出場は最終的に40人に絞られる。練習の前後にも、廊下や空き教室で、自主練習する生徒らの姿があった。
 こうした光景はこの時期に限らない。正月と盆の数日を除き、練習は土日も含め、年中無休。コンサート、コンクールが次々にあり、海外遠征もある。2017年4月には、高校2、3年生がアイルランドで初の国際コンクールに参加し、ベストソング賞を受賞した。生徒らの歌声を、観客がスタンディングオベーションでたたえたという。
 アイルランド公演に参加した3年生に話を聞くと、「客席と舞台が一つになったのを感じて、コンサートが楽しい、と心から思いました」(片山琴音さん)と、明るい答えが返ってきた。でも、毎日クラブ活動で疲れないのだろうか。「良い賞をもらえると、しんどさも吹き飛んで、頑張ってよかったと思えます」(山下真弥さん)、「休みたい日もあるけど、部活が好きなので、みんなで高めあえる時間がうれしい」(長田紫苑さん)と前向きだ。一つ一つの動作が折り目正しく、言葉遣いもすがすがしい。これもコーラス部の伝統だ。部長の長田さんは「武庫川の代表として、学校のイメージを汚さないよう、マナーには気を付けています。先輩たちが積み上げた伝統をしっかり受け継いでいきたい」と、力強く語った。
 Nコン近畿大会は9月2、3日に行われ、中高とも金賞を受賞して全国大会出場が決まった。全国大会は10月7日(高校)、9日(中学)に開催される。 

(米)

企業の依頼受け、本気のCMづくり――広告メディア演習[2017/08/04更新]

 2017年度で7年目を迎える情報メディア学科の「広告メディア演習」(2年後期)は企業と連携し、商品やサービスのコンセプトを、30秒CMで表現する実践型の授業だ。これまでに大阪市水道局、NTT西日本などと連携し、それぞれのCMを作成した。2016年度は西宮市の酒造メーカー「白鷹」と連携して大吟醸のCMづくりに挑み、商品ブランドCMと企業CMの2部門に分かれて計11作品を制作。「極上 白鷹で生まれ変わる!」と「紅葉」の2作品が「白鷹賞」に選ばれた
 
 「極上 白鷹で生まれ変わる!」(商品ブランドCM)は、伊勢神宮御料酒に選ばれる格式ある日本酒と、若い女性の知的で上品な美しさをリンクさせた点が女子大生らしい。
 ――「みんなきれいになってるだろうな」。中学校の同窓会に向かいながら、女性が自信なさげにつぶやいた。そこへ、白いひげを蓄えたユーモラスな“はくたかさん”が現れ(写真左)、大吟醸を飲ませると、女性はたちまち美しく変身。自信を持って会場に向かう。
 「紅葉」は、紅葉のシーズン、若い女性が神社に参拝する澄んだ心持を、大吟醸の混じりけのない透明感に重ねた。砂利を踏むヒールの足元や、ライダージャケットをはおって手水を使う様子(写真右)が、これまでの「日本酒=和風」のイメージを覆し、新鮮だ。随所に挿入される紅葉の赤が効いている。制作した学生らは「西宮神社に何度も通ってロケをしました。紅葉の色や重なり方、お酒の注ぎ方、照明の当て方など、美しい映像を撮ることにこだわりました」と言う。
 
 この授業ではCMづくりの理論や技術を学んだあと、3,4人のグループに分かれ、企画、絵コンテづくり、撮影、編集、音入れまで、すべて学生の手で作品を作り上げる。白鷹の澤田朗社長らもたびたび授業に参加し、途中経過を見ながら意見を述べた。各グループがいわばCMの制作会社であり、コンペの現場に居合わせる緊張感がある。
 澤田社長は、「若い人の日本酒離れが進む中で、若い女性は日本酒メーカーとして一番掘り起こしたい層。まずは女子学生に日本酒を知ってもらい、CMづくりを通して、われわれが気付かなかった若者ならではの視点を提供してもらいたい」と、連携の狙いを語る。
 広告メディア演習は、4人の教員が協働して作り上げる授業としてもユニークだ。かつて広告会社に勤務し、マーケティング戦略プランナーとして活躍した井上重信講師、映像制作や芸術表現を専門とする肥後有紀子講師と荒川美世子講師、マーケティング戦略の理論面から統括する赤岡仁之教授が、それぞれの専門性を生かして指導にあたる(写真中央)。「専門分野を寄せ合うことで、いろんな角度からアドバイスでき、より高度な授業が可能になる」と赤岡教授。
 授業実施期間は、学内のそこここで、ビデオカメラと一升瓶を抱えた撮影クルーを見かけた。クライアントの本気のまなざしが学生のやる気を引き上げ、教員らのプロフェッショナルな指導が作品のクオリティを“本物”の領域に高めている。

(米)



 

建物のスペシャリストが「本を編む」でゲスト講演[2017/07/28更新]

 武庫川学院80年史は正史であるA面と、学生によるB面の2巻セットを予定している。授業でB面作りに取り組む共通教育「本を編む」(担当:河内鏡太郎教授ほか)で7月、施設部の重岡譲部長がゲスト講師を務めた。
 重岡部長は学院の建物を多く手掛ける竹中工務店の元社員。入社の翌年から武庫川学院担当となり、40年間、学院の施設新築一筋に勤めあげた“建物のスペシャリスト”だ。授業ではまず、中央キャンパスの建物の戦前から現在に至る変化を、スライドで解説した。

 戦争で校舎の大半を焼失した学院は戦後、いち早く復興した。その背景に、竹中工務店や銀行、地域の人たちの協力があった。当時の木造校舎の一部が、学院記念館として保存されている。旧文学館の屋上には「MUKOGAWA」のネオンサインがまたたいていた。武庫川学院の建物に統一感を持たせているレンガ色のタイルは、茶や灰など6種の色がまじりあい、独特の色味を出している。タイルは当初、佐賀県有田町で焼いていたが、現在は岐阜県多治見市で焼いている。図書館がタイルではなく石づくりなのは隣り合う本館とのバランスと、大学の象徴としての風格を表すためだった――。
 初めて聞くエピソードや、今とはかけ離れた学院の様子に、学生たちは身を乗り出して聞き入った。重岡部長が質問を呼び掛けると、次々に手が挙がった。
 「建物を建てる上で心がけていることは」という問いに、「建物はプラスマイナス1ミリの精度が求められる。私たちは垂直も水平も、誤差ゼロを目指して取り組んでいる」と胸を張った。苦労を問われると、「建物を建てるには段取りが7割、現場は3割。段取りは目に見えないが、建物の完成に欠かせない」「工事中は騒音や振動で近隣の人に迷惑をかける。何百軒あろうと、一軒一軒回って理解を求めた」と、地道な努力を明かした。学院の建物は演奏ホールなど地下空間も多い。「中央キャンパスの敷地はもともと海なので、1・5メートルも掘ると水が出てくる。仮の壁で水を遮断しながら工事をするが、地下工事は水との戦いだ」。最近は女性の設計士やインテリアデザイナーが活躍していることに言及し、「教室の壁や床に木材や繊維など有機質の材料をつかったり、廊下をガラス張りにしたりすることで、女子大らしい空間が生まれ、感性も磨かれる。女性ならではの発想だ」とたたえた。
 授業が行われている教室が図書館6階であることから、図書館に関する質問も相次いだ。
 「図書館の建物をキャンパスの象徴とみるのはなぜ」という問いには、「アメリカでもヨーロッパでも、大学の目立つ位置に図書館が配置されている。自ら学ぶ姿勢が最も表れるのが図書館だからだ」。2013年のリニューアルに触れ、「図書館内にカフェを設けたり、可動式の教室を設けたり、現図書館長の打ち出すアイデアを建物に反映させた。図書の配置も大きく変えたが、この建物は蔵書100万冊にも耐えうる強度を備えている」と力を込めた。これを受け、図書館長の河内教授は「今、全国の図書館が我が図書館のチャレンジにならい、変わろうとしている。武庫川学院の図書館には学生ファーストの視点がある。歴代の学院長はじめ先達が教育的見地から、細部まで”本物”にこだわって空間を作りこみ、良い伝統を築いたおかげだ」と言葉をつないだ。

(米)


写真撮影 大情2年:豊田莉加 大心4年:藤本彩花

武庫川の流れに鍛えられて――創部53年のカヌー部[2017/07/25更新]

 午後4時半。阪神武庫川線洲先駅近くにある二階建ての倉庫に、続々とカヌー部の部員が集まってきた。体幹トレーニングとミーティングの後、それぞれ艇(ふね)をかついで武庫川に向かう。艇は長さが5m以上あり、狭い生活道では方向転換もままならない。人と艇が一直線になるよう、慎重に住宅街を抜け、踏切をまたぎ、車道を横切る。ルートの要所要所に部員が立って、安全確認をする。
 部員たちは護岸から慎重に艇を川に下ろすと、解き放たれたように川上に向かって漕ぎ出した。
 
 カヌー部は東京オリンピックが開催された1964年に同好会として発足し、翌65年、クラブに昇格した。武庫川学院創立80周年の2019年に創部55年を迎える伝統のクラブだ。1983年にインカレ(全日本学生カヌースプリント選手権大会)初優勝。1996年のアトランタオリンピックに西夏樹、渡辺麻子の2選手を初めて送り出した。その後、北本忍選手がアテネ、北京、ロンドンの3大会に、鈴木祐美子選手がアテネ、北京の2大会に連続出場し、武庫女カヌー部の名を世界に知らしめた。2010年に武庫川学院が強化クラブに指定。2012年からインカレで連続優勝を続けており、2017年8月、前人未踏のインカレ6連覇に挑む。
 部員24人の大半はカヤックの選手だが、カナディアンを選ぶ選手もいる(カヤックはパドルの左右にブレードがあり、カナディアンは片側にしかない)。実績のある武庫女カヌー部には、四国や九州、東北など全国から有力選手が集まってくる。
 キャプテンの松永あゆりさん(健スポ4年)は熊本県立水俣高校出身。「高校時代にカヌーを指導してくれた恩師が武庫女出身で、カヌーを続けるなら武庫女、と勧められました。本気でカヌーに取り組む仲間に囲まれ、互いに高めあえる環境です」と言う。
 武庫女のカヌーの強さは、武庫川にあるといわれる。河口に近く、阪神電車の武庫川駅あたりまで海水が続くため、艇が浮き、波のうねりで漕ぎにくい。それを克服することで力がつく。「カヌーで大事なのは筋力よりもバランスです。水上で自分の持つ最高のパフォーマンスができるよう、波や風や温度、浮力など、その時々の条件を味方につける経験と知恵が求められます」と、橋本千晶・強化コーチ。自身も学生時代、武庫川のヘドロで顔を汚しながら、波風と闘ったOGだ。
 水上練習は月曜を除き年中無休だ。冬の雨の日や南風で川が大荒れの日は、室内でトレーニングを積む。1回の乗艇で、10〜18q漕ぎ続ける。艇の前方に負荷をつけたり、ダッシュを繰り返したり、様々なメニューをこなす。インカレ6連覇がかかった2017年7月は、午前6時30分から約2時間の朝練習を、全員参加で続けている。
 「まだいける!いける!」。橋本コーチが堤防沿いの道を走りながら、声を飛ばした。夕方のいつもの風景。艇が通った道筋に水面が揺れ、時々、ボラがジャンプする。距離が長くなるにつれ、スピードは上がる。前へ前へ。徐々に暮れ行く武庫川に、部員たちが灯すライトが連なる。その先に2020年の東京オリンピックが見えてきた。

(米)

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